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国内で活躍する同窓生(敬称略)
松本 五十六(昭和50年卒) 千葉県在住

パイロット修行時代のこと

羽田空港を出発する乗務機
 会社勤めの職人にとって、ハッピーリタイアまでの一日一日が是れ修行なわけですが、職業パイロットとして取り敢えずの一人前になるまでの数年間は、私にとっても文字どおり修行時代として試行錯誤無我夢中のときを過ごしました。

 朝日高校の生物部で太田耕次郎先生と野鳥を見ていた私は、昭和50年に卒業するとすぐに北海道へ渡りました。
そして北の大地に暮らす憧れの鳥たちの姿を求めて、週末ごとに野山を歩き回っていましたが、ある日、広い空に舞う鳥と、入試旅行で大阪空港から飛び立ったときの上昇旋回の感覚が重なり、翌週には運輸省航空大学校へ願書を郵送していました。大学一年の夏休みでした。
 
宮崎青島海岸で同期と 右端筆者

 翌春宮崎の航空大学校で私を待っていたのは、人里離れた寮生活と準軍隊式の教育でした。飛行教官の中には二十歳の頃にゼロ戦で戦った人もおり、先輩後輩・教官学生の上下関係が厳しく、「気を付け、敬礼!」の毎日でしたので、「大変なところに来てしまったなあ」、と一時は思いました。

 しかし、民間航空のパイロットを養成する機関なので、やはり自衛隊での教育訓練とは質が違っていました。自衛隊では上官命令への服従と任務遂行能力の付与ですが、航空大学校では公共交通機関に携わる者の責任感と技能付与です。当時は一定以上の成績で課程を消化することに精一杯で、そんなことを考える暇もありませんでした。

 宮崎で得たものは多々あります。朝日高校では水泳の授業が無かったのでつらい思いをすることはありませんでしたが、洋上不時着に備える意味で300m泳げなければ卒業させないと言われ、潜れるものの浮くことが出来なかった私はプールのカナヅチ専用レーンで毎日夕方3時間もがき、なんとかひと月半で体育教官の合格をもらいました。このときの成功体験は、その後次々に出てくる壁を乗り越える上で大きなちからになりました。

 二つ目は、技能付与には鉄拳教育が必要な分野があることを知ったことです。
飛行機の操縦訓練は単位時間当たりの経費が非常に高いため、適性があるにもかかわらず規定時間内に仕上がらず訓練中止とすることがよくあります。また、航空機の運航はいたるところに不安全要素が存在しますので、訓練時間内だけでも集中させるように、もちろん怪我をさせない程度にですが、状況により鉄拳が必要なことがあります。そこに普段からの人間的な信頼関係があれば、鉄拳を受けても無用な緊張が起こらず、安全で効率の良い訓練になります。

 私の場合は帯広分校での飛行訓練でした。取っ付きは良いものの中弛みし易い性格の私は、単独飛行前の試験間近になって伸び悩んでいました。試験に合格しなければ翌日に荷物をまとめて岡山へ帰らなければなりません。着陸前の直線降下飛行で、速度の制御が遅れ遅れになる様子を隣の座席で見ていたY教官は、「エアスピード!」と発し、私の顔面を手の甲で打ちました。すると一気にアドレナリンが出て、私は気流の乱れに負けず立ち向かっていきました。何やら冷たいものが鼻水みたいに出ていたので、着陸後に拭ってみると飛行手袋が真っ赤になりました。後年、Y教官と呑むたびに「あのとき僕を殴りましたよね。」といじめていますが、Y教官は毎度「それはもう言うな。」と応じています。よく謂われることですが、人にものを教えるということはたいへんなことですね。
 来月、Y教官が隠居している熊本に泊り出張があるので訪ねてみようと思います。あの話題には触れずに。
      
プロペラ機の副操縦士席で(25才頃)
 航空大学校で若いときを過ごして本当に良かったなと思うことは、やはりなんといっても同じ釜の飯を食ったたくさんの仲間を得たことです。
卒業後は各航空会社や官公庁へと進路は別れましたが、業界が狭いため今でもあちこちの空港で顔を合わせ安全関係の情報交換などをしています。また社内では定年まで、同期のペアで訓練したり同じ役職に就いたりしますが、意思疎通で困ることはありません。特に訓練で壁に当たったとき、気心の知れた相棒はコツを親身に教えて励ましてくれます。

 航空大学校を卒業すると私は東亜国内航空に職を得て鹿児島支店に配属され、台風や入道雲の中をどうやって安全に飛ぶかを芋焼酎を仲立ちにして教えてもらいました。そして35歳で機長席に座るようになってからは、毎日後輩たちを叱咤激励する役回りになっています。さすがに30歳の副操縦士に鼻血を流させることはありませんが。
入社時に乗務したプロペラ機と現在の筆者

 岡山―東京便を利用されることがありましたら是非声を掛けてください。

 最後になりましたが、昨年は京浜地区同窓会の当年次幹事の一人として、事務局や諸先輩・後輩に支えられて無事総会を開催することができました。
岡山の皆様にも多大な御助力をいただきました。あらためて御礼を申し上げます。

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