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メディアに登場したホットな同窓生をご紹介(敬称略)
山下  俊英 (昭和58年卒) 


中枢神経の再生に関する研究でアメリテック賞を受賞して


 岡山朝日高校の同窓生の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
昭和58年卒業の山下俊英と申します。

アメリテック賞を授賞式会場にて。右が私。

 私は高校を卒業後に岡山を離れ、その後の期間の多くを大阪で過ごしました。大阪大学医学部を卒業した後は脳神経外科に所属し、臨床医としてのトレーニングを受けました。この間、脳出血やくも膜下出血、脳挫傷や脊髄損傷といった、救急の疾患を主に扱う病院に勤務して、多くの患者さんを診たのですが、これらの病気によって、言葉が失われたり、手足が動かなくなったり、あるいは意識が悪くなってしまった場合、どのような治療を施しても回復が極めて困難であることを痛感するに至りました。

 コールがあれば深夜であっても30分以内に病院に駆けつけ、年末年始さえないという生活で、この仕事は体力的にもたいへんなのですが、それよりも私にとっては、患者さんを治すことのできる治療が少なく、無力感を感じることに悩むことが多かったように思います。私が臨床医になって最初の年に母が交通事故によって脳挫傷となり、後遺症を抱えたまま暮らすことになったことも、その後の進路に大きな影響を与えることになりました。

 私は六年間の臨床経験を経て大阪大学の大学院に進み、研究を始めました。それから約10年たちましたが、現在に至るまで研究生活を続けています。2003年からは千葉大学医学部の主任教授となり、研究グループを率いる役割を担っています。この10年間、医学研究は格段に進歩しました。10年前ではまったく夢のような話でしたが、今では研究が直接病因解明や治療法の開発につながるという時代になってきています。

アメリテック賞を授賞式会場にて。

 私は臨床医だった頃に感じていた疑問を研究テーマとして選びました。それはいったん傷ついた中枢神経(脳と脊髄)がなぜ再生しないのかということです。スーパーマンを演じていたクリストファーリーブという俳優がいました。彼が落馬事故に遭い、その後の10年間を首から下が動かない状態で生き続けたのはよく知られていますが、皆様の周囲でも脳溢血などによって言葉を失われた方、手足が動かなくなられた方がいらっしゃるのではないでしょうか? 現時点ではこれらの患者さんを根本的に治療する方法はないのです。このときに脳や脊髄の中でどのようなことが起こっているのでしょうか?

 脳脊髄には数多くの神経細胞があります。この神経細胞が互いにネットワークを作って機能を発揮しているのですが、さまざまな疾患によってネットワークが破壊されます。この失われたネットワークは元通りに回復しないということが、今から約80年前にわかっていたのです。そして20年前には、中枢神経の中にはネットワークの再生を阻止している物質が存在するのではないかと考えられるようになりました。もしもこの物質が発見されれば、それを無力化することで中枢神経障害の患者さんを治療することができるかもしれないと期待されたわけです。

千葉大学の教室員数人と妻

 中枢神経にあるネットワークの再生を阻止する物質が発見されたのは、2000年のことでした。20年の歳月をかけてこの物質を探し続けたスイスの科学者Martin Schwab博士の功績です。Nogoと名付けられたこの物質が見つかってからの数年間は、Nogoがどのように神経細胞に働いて、ネットワークの再生を抑制するのかという疑問に答えることに費やされました。世界中の多くの科学者がこの問題に取り組み、80年間の謎は21世紀にはいって数年ほどの間にほぼ解き明かされるにいたりました。

 私は神経細胞に発現している再生阻害蛋白に対する受容体と神経細胞の中で惹起されるシグナル伝達機構の一部を解明しました。研究競争は熾烈で、特にハーバード大学のHe博士とは先陣を争った数年間でした。しかし結果的には、この研究競争のおかげで予測よりも早くなぜ中枢神経が再生しないのかという問いに対する答えを見つけることができたのです。

左よりMark Tessier-Lavigne、私、
Marie Fibin、Zhigang He。

 2005年、以上の業績により私はHe博士と共にアメリテック賞を受賞しました。この賞は脊髄損傷などの中枢神経障害を克服する治療法開発につながる基礎研究を表彰するものです。ノミネートしてくださったのは、この分野で世界的なリーダーとされるMark Tessier-LavigneとMarie Filbin(写真左)でした。2005年11月にワシントンで授賞式があり、数枚の写真はその模様です。

 しかしながら、まだ研究は完成されたわけではありません。中枢神経再生に向けた治療開発への試みはこれからという段階です。これからの数年間で、真に患者さんの役に立つ研究開発ができるのではないかと期待しています。一方、私が朝日高校で同級生だった谷川俊彦君が、私たちの研究を推進する会社BioClues株式会社を代表取締役として設立し、力を合わせて目標に向かって精進しています。人のために役立つ仕事をしたいという設立の趣旨を胸に刻んで、これからの数年間を精一杯頑張っていきたいと思っています。

 

 
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