● ワールドリレー ●

世界で活躍する同窓生からのメッセージ(敬称略)

板野 和彦 (昭和46年卒) アメリカ/ヒューストン在住


こちら ヒューストン

 新年明けましておめでとうございます。   
 昭和46年卒の板野和彦です。入学は42年でしたので、同期会は45年卒のグループに加えてもらっています(そちらのHPも連日賑わっています)。

 1969−70年(カリフォルニア州サンノゼ)、86−89年(ワシントンDC)につづき、2001年9月から3度目の滞米生活です。今回は、9・11事件の直前に赴任しましたので、滞在も2年半近くになりました。ただ、仕事上の打合せのための東京出張が多いし、インターネットなど情報通信手段の発達により時差を超越したコミュニケーションが可能なので、日米双方の「日常」を生きているような生活です。

 ヒューストンへは成田から直行便(毎日ほぼ満席)で13時間程度。松林を切り拓いてつくられたジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港(さらに拡張中です)に着くと、真っ平で360度の地平線がみえる大地、そして抜けるような青空、縦横に走るハイウェー…から受ける広々とした印象を素直にうれしく感じ止めることができます。物理的な広さが精神的な伸びやかさにつながることも実感できます。と同時に、日本に戻るたびに、変化に富む日本の風景や繊細でまろやかな日本食を味わえるよろこびを改めて感じています。 

 

<石油、天然ガス開発の「サハリン−1」プロジェクト>

 仕事は、最近新聞やTVでよく報道されるサハリン(樺太)沖の石油天然ガス開発プロジェクトの推進です。四半世紀以上前から当時のソ連と日本側関係者多数が尽力してきたこのプロジェクトは、ここ10年ちょっとの間に大きな進展をみました。ソ連邦の解体・冷戦の終結にともない、ロシアは資源開発にも外資を受け入れるようなり、また、ロシアには石油や天然ガスの巨大な埋蔵量があることからメジャー(国際石油資本)も進出を図ろうと狙っているので、日本勢もロシア企業や外国企業と共同して事業を推進することが可能になってきたのです。

 私たちのプロジェクトは、日ソ間の協力プロジェクトを前身とする「サハリン−1」で、現在は米国のエクソンモービル社(いわゆるスーパーメジャーのひとつ)、日本のサハリン石油ガス開発梶i略称「ソデコ」。筆者の所属先)、ロシアの2企業、インドの国営石油会社からなる国際コンソーシアムが取り組んでおり、厳しい自然環境や地下の状況、またビジネス環境の複雑さにもかかわらず、来年2005年から石油、天然ガスの生産を開始する予定です。サハリン島北東部の海岸では、沖合いの海底の地下に向かって世界記録に近い約10kmもの傾斜掘りの生産井の掘削や、産出される石油・ガス・地下水を分離する処理施設の建設、原油を大陸側の港から輸出するためのパイプライン敷設などの工事が進行中です。これだけで数十億ドルかかります。さらに、近い将来は、天然ガスを日本まで海底パイプラインで輸送するとともに、同じ鉱区にあるほかの油ガス田を開発する計画です。

 石油、天然ガス開発プロジェクトは、通常、このようにいくつかの石油会社の共同事業として実施されます。グループのなかの1社がオペレーター(操業責任者。いわば「幹事さん」)となって事業計画の立案、承認された計画の実行、産油国側との連絡調整にあたります。このサハリン−1プロジェクトでは、技術力、資金力はもとより世界的な操業経験、総合的な事業管理能力をもつエクソンモービル(の子会社)がオペレーターとなっています。ただ、このプロジェクトはその起こりが日ソの共同事業であり、生産物の主要マーケットが日本であることから、日本側メンバーであるソデコ(株主は石油公団、石油資源開発、国際石油開発、伊藤忠商事、丸紅、帝国石油)も事業の実施に重要な役割を果たすため、エクソンモービル社のなかに設けられたプロジェクト・チームに、日本側とのリエゾン役と個別分野の専門家(プロジェクト管理、地質、油層、掘削、施設など)を派遣しています。現在、そのリエゾン役の筆者と6名の専門家がヒューストンに駐在しています。(写真は、駐在員の家族で祝った昨年のクリスマスのものです)。  

<ヒューストンの魅力 あれこれ>

 ヒューストンは、米国の石油会社のほとんどすべて、そして個別分野の専門会社(坑井掘削、物理探鉱、油田関連サービス、情報コンサルタントなど)がオフィスを置いている石油、ガス開発事業のメッカです。日本企業でも、石油会社数社、商社などがオフィスを開いています。

 また、ヒューストンは、全米の石油精製能力の3分の1が集中しているところ(テロリストの攻撃対象にあげられている可能性が大)であるとともに、NASAのジョンソン宇宙基地(ロケット打上げではなくコントロール・センター)で知られるように宇宙産業の中心地でもあり、また、先端的な医療の中心でもあります。従って、多くの外国人が住み、外国滞在経験をもつ米国人が多いところから、カウボーイや牧場といったいわゆるテキサスの他の都市のイメージとは異なって、「インターナショナルな都市」であると評されます。

 1800年代後半からの石油や金融・保険業で蓄積された富によって、ヒューストンは全米でもめずらしい交響楽団、オペラ、バレエの3つをもつ文化的な都市であり、メニール美術館(http://www.menil.org。建物は建築家レンゾ・ピアノの設計)や現代美術館が有名ですし、野球やアメリカンフットボールはじめマリーンスポーツも盛んです。野球といえば、最近引退を撤回した“ロケット”ことロジャー・クレメンス投手、その友人であるもとヤンキースの左腕アンディ・プティット投手の二人(いずれもヒューストン出身)が最近相次いで当地のアストロズに移籍したので、ヒューストンっ子は今年のワールド・シリーズ進出を確信しています。来月早々第38回スーパーボウルがヒューストンで開催されることも忘れてはなりません。

 ヒューストンは砂漠にある、というイメージを抱いている方が多いのですが、まったくの誤りです。人口全米第4位の大都会ヒューストンは、最初はメキシコ湾に注ぐ川(バイヨー)の岸に建設された街で、亜熱帯気候に属します。海から開削された水路、ヒューストン港は全米でも重要港湾のひとつです。夏の暑さは尋常でなく、外を歩くと日射病の危険があるためダウンタウン(旧都心)の主要ビルが地下道でつながっているくらいです。春、秋は短く、冬はたまに気温が氷点下になることもあるものの、雪が降ることはありません。乾燥しているどころか、夏のスコール(激しい夕立)や集中豪雨によって、道路がしょっちゅう冠水します。3年前の大洪水を記憶されている方も多いと思います。

 ヒューストンを象徴するのは、冒頭に述べた縦横に走るハイウェーです。この大都会が、海岸平野の全方向に向かってスプロールした結果、自動車しか交通手段がないため、車一台当たりの一日の平均運転距離が50km近いという全米最高の車社会でもあります。交通混雑解消、交通事故防止、さらに環境問題への関心から、車に代わる公共大量輸送手段の導入が長年議論されてきましたが、いったん車での移動が前提となってしまった大都会では、公共バス網が充実されつつあるものの、通勤鉄道の建設は、財政的に困難のうえ社会的な支持を獲得するのも容易ではありません。

 しかしながら、やっと今年1月1日から、ヒューストンのダウンタウンに約10kmほどの路面電車が復活しました。岡山市にも導入された低床車両・2輌連結型で、乗車料金は1回1ドル。昨年11月の住民投票で、今後この型の路面電車の路線が約100kmほど増設されることが決定しました。ただ、そのときの建設賛成・反対派の論争にあったとおり、これだけの路線では通勤需要を満たすにはほど遠いのも事実です。むしろ、この路線は、ヒューストンの都心(内側の環状線ハイウェー610号線より内側)をより都会的にする、つまり、いわゆるテキサスの農場やカウボーイ、あるいはロデオの伝統を尊重しつつも、ロンドンやマンハッタンのような都会への憧れがあって、できることなら、高層ビルのオフィス街へ電車で通勤し、歩いて楽しめる街路や盛り場がほしい、という願いから発したもののように思えます(西南部の住宅地からの通勤用近郊鉄道新設も計画されており、北西部へも以前の鉄道路線・敷地を利用した形の路線が提案されています)。

(ここに書いたようなヒューストンの最近の事情を、地元紙ヒューストン・クロニクルの記事をもとにまとめた、山陽新聞HPへの寄稿をご参照ください。http://www.sanyo.oni.co.jp/kikaku/kenjin/itano/


<米国も日本も、そして自分も変化している>

 筆者の3回の滞米時期は、日本経済について言えば、高度成長期→プラザ合意後の円高・バブル期→バブル崩壊後のデフレ期に当たります。為替だけみても、固定の360円/ドルから一時期の100円台を割る相場を経て、現在の100〜110円/ドルの水準になりました。また、滞在地も西、東海岸と南西部というまったく地理的に違う場所で、しかも、自分自身の生活がが高校生(ホストファミリーへの「居候」)→小さな子供を連れた夫婦→単身赴任というように変化しました。

 ですから、同じ米国といっても、自分が日常接する人々の種類や風土が異なりますし、触れる英語も微妙に違いますが、それでも米国の家庭生活のなかで培われてきた伝統の良質の部分、そして多種多様な人間の間の関係を合理的に処理していくための知恵や仕組みが基本的に保全されていることを実感します。また、米国社会がいかに多くの複雑な問題を抱えていても、外国人に対する「懐の深さ」がいまだ損なわれていないことも確かです(ただ、テロリズムへの戦いが内向きになり、ビザ発給審査や入国管理が厳しくなってはいますが)。

 ヒューストンにご関心のある方、あるいは何なりとご質問のある方は、上記ウェブサイトにある連絡先までご遠慮なくお寄せください。

 

 
岡山朝日高校同窓会公式Webサイト